ことも時々あった。けれども音楽それ自身は、少しも変わっていなかった。いつもきまって、穏和で、蒼白《あおじろ》くて、縮み込み、貧血し、衰弱していた。――当時フランスでは、音楽において声低く語るのが、心ある人々の間の流行だった。それには理由があった。声高く語るのは叫ぶためのものだった。中間はあり得なかった。うっとりとさせる秀《ひい》でた調子か、插楽劇《メロドラマ》的な誇張した調子か、その一つを選ぶしかなかった。
 クリストフは、自分にも感染してくる遅鈍な気分を振るい落して、曲目をながめた。そして、灰色の空を通るそれらの細かな霧が、精確な主題を表現するつもりでいるのを見て、驚かされた。その理論にもかかわらず、この純粋な音楽は、いつもたいていは標題音楽であるか、あるいは少なくとも主題音楽であった。彼らはいたずらに文学をののしってるのみだった。身をささえる文学の松葉|杖《づえ》が、彼らには必要だった。おかしな松葉杖だ! クリストフは、彼らが描こうとしてる主題のおかしなほど幼稚なのを、見て取った。果樹園、菜園、鳥小屋、音楽上の動物園、まったくの動植物園だった。ある者らは、管弦楽やピアノのために、ル
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