た。当然のことであるが、彼はまったく異なった芸術に馴《な》れきっていたので、その新しい音楽には少しも理解がなかったし、理解できると思ってるだけになお理解できなかった。
すべてが永久の薄明のうちに浸ってるように、彼には思われた。あたかも灰色の浮絵のようであって、その各線はぼやけて沈み込んでいて、時々浮き出してはまた消えていった。それらの線のうちには、直角定規で引いたような堅い荒い冷やかな構図があって、痩《や》せた女の肱《ひじ》のように鋭角をなして曲がっていた。または波動をなしてる構図もあって、煙草《たばこ》の煙のようにもつれていた。しかしすべては灰色の中にあった。それでみると、フランスにはもはや太陽はないのか? パリーへ着いてから雨と霧とにばかり会っていたクリストフは、そう信じがちであった。しかしながら太陽がない時にも太陽を創《つく》り出すのが、芸術家の役目である。それらの人々は、自分の小さな燈火をよくともしていた。ただそれは螢《ほたる》の光ほどのものにすぎなかった。少しも物を暖めないし、辛うじて輝いていた。作の題目は変わっていた。春、正午、愛、生の喜び、野の散歩、などが取り扱われてる
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