ってる、耄碌《もうろく》した貴族どもで、自分の近代主義を証明するためには、流行の小説や芝居の中で演ぜさせられる屈辱的な役目を喜び、侮辱する者らの御|機嫌《きげん》を取ってるという奴どもです。何にも読まず、何にも理解せず、何にも学ぼうとせず、ただいたずらに苦々《にがにが》しい無用な悪口を言うことばかりを知ってる、癇癪《かんしゃく》もちの俗輩です。――その熱情と言ったら、ただ眠ることだけです。ためこんだ金嚢《かねぶくろ》の上にぐっすり寝込んで、眠りの邪魔になるような者を憎み、または働いてる者をも憎むんです。なぜなら、自分たちが眠ってる間に他人が動きまわってることは、彼らの邪魔になるからです。……もし君がそういう連中をよく知ったら、君はわれわれの方に同情を寄せてくれるようになるでしょう。」しかしクリストフは、両者いずれにたいしても大なる嫌忌《けんき》の念を感ずるのみだった。なぜなら彼は、被迫害者の下劣さは迫害者の下劣さを許してやる口実になろうとは考えなかったから。彼はストゥヴァン家で、富裕な不機嫌《ふきげん》なこの中流市民の典型的人物にしばしば出会っていた。ルーサンは彼らのことをこう彼に言ってきかせた。
[#ここから3字下げ]
……恥もあらず誉《ほまれ》もあらず
いたずらに生くる者らの悲しき魂……。
[#ここで字下げ終わり]
ルーサンおよびその仲間の者らが、それらの人物を統御する力を自信してるのみでなく、またその力を濫用するの権利をも自信してることについては、クリストフも明らかにその理由を見て取っていた。統御の道具立ては彼らに不足していなかった。なんらの意志もなく盲目的に服従してる、無数の役人。阿諛《あゆ》的な風習、共和党員のない共和国。巡遊の王者の前に歓喜してる、社会主義の新聞。肩書や金モールや勲章の前に平伏してる奴僕的な魂。それらを制御するには、しゃぶるべき骨を、レジオン・ドヌール動章を、餌《え》として投げてやれば十分だった。もし一の王者があって、フランスの公民をことごとく貴族にしてやると約束したならば、フランスの公民は皆王党になったかもしれない。
政治家らは好機に際会していた。一七八九年の三つの階級のうち、第一の階級は滅亡していた。第二の階級は放逐されるか嫌疑《けんぎ》を受くるかしていた。第三の階級は勝利に飽いて眠っていた。そして今や、脅威的な排他的な姿で擡頭《たいとう》してきた第四の階級は、屈服させるのにまだ困難ではなかった。頽廃《たいはい》したローマが野蛮人の群れを取り扱ったと同じように、頽廃したフランス共和政府はこの第四階級を取り扱っていた。ローマはもはや野蛮人らを国境外に掃蕩《そうとう》する力がなくて、彼らを自分のうちに合体させ、そして間もなく彼らは最上の番犬となってしまったのである。社会主義者だと自称してるブールジョア階級の代表者らも、労働階級の選良中の最も知力すぐれた人々を、隠密《おんみつ》に引きつけ併合していた。彼らは無産党からその首領らを切り放し、その新しい血を自分のうちに注入し、その代わりには、ブールジョア的観念を彼らにつめこんでいた。
ブールジョア階級が試みてる民衆併合の企てのうちで、当時最も不思議な実例の一つは、通俗大学であった。それは、人の知り得るあらゆる事物[#「人の知り得るあらゆる事物」に傍点]の知識を雑然と並べた、小さな勧工場だった。そこで教えることになってる科目は、綱領の示すとおり、「物理学や生物学や社会学などの知識の各部門、すなわち、天文学、宇宙学、人類学、人種学、生理学、心理学、精神病学、地理学、言語学、美学、論理学、その他」であった。しかし、ピコ・デラ・ミランドラの頭を割ってぶちまけたとて、それがなんの役にたつものか!
もとより、通俗大学のあるもののうちには、その起原においては、誠実な理想主義、真や美や精神生活やを万人に分かとうとする要求が、存在していた。それはりっぱな事柄だった。一日の激しい労働を終わって、狭い息苦しい講堂にやって来、疲労よりもさらに強い知識欲をいだいてる、それら労働者らの集まりは、感嘆すべき光景を呈していた。しかしながら、いかに人々はそれら憐《あわ》れな者たちを濫用したことだろう! 知力すぐれ慈心ある少数の真の使徒に比して、巧者だというよりもむしろりっぱな意向をもった少数の善良な心の人に比して、愚者、饒舌《じょうぜつ》家、陰謀家、読者のない著作家、聴衆のない弁舌家、教師、牧師、巧弁家、ピアニスト、批評家、すべて自分の製作物で民衆をおぼらそうとする徒輩が、いかに多かったことだろう。彼らは各自に自分の商品を並べたててばかりいた。最も客を多く呼んだ者は、いうまでもなく、香具師《やし》、哲学的|駄弁《だべん》家、天国的な社会を匂《にお》わして一般的観念を盛んにこね
前へ
次へ
全97ページ中66ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング