すめ》の役をしてる女優が「腐ったソースのような」鈍い声を出してると言ったり、花形女優が「ランプの笠《かさ》のような」着物をつけてると言ったりした。――あるいはまた、夜会へ出かけた。その楽しみは、自分の姿を人に見せることだった。もちろんきれいな女にとってである。――(そのきれいさも日によって異なっていた。パリーの美人くらい変わりやすいものはない。)――そして服装や身体の欠点など、すべて人々にたいする批評の種を、新たに仕入れた。話の方は少しもやらなかった。――遅くなって家に帰った。なかなか寝られなかった。(最も眼が冴《さ》えてる時間だった。)テーブルのまわりにぐずついていた。書物を開いてみた。ある言葉や身振りを思い出して一人で笑った。退屈してきた。非常に味気なかった。眠ることができなかった。そして夜中に突然、絶望の発作に襲われるのだった。
 クリストフは、時々数時間しかコレットに会っていなかったし、彼女の転身の二、三をしか見ることができなかったので、右のようなことを知るだけでもかなり困難だった。いったい彼女はいつが真面目《まじめ》なのか――あるいは、彼女はいつも真面目なのか――あるいは、彼女は決して真面目なことがないのか、それを彼は怪しんでいた。コレット自身もそれには答えることができなかったろう。遊惰な拘束された欲望にすぎない多くの若い娘と同じく、彼女も闇夜《やみよ》の中に生きていた。自分がいかなるものであるかをも知らなかった。なぜなら、自分の欲するところを知らなかったし、実際に行なってみないうちはそれを知ることができなかった。そして彼女は、周囲の人々の真似《まね》をしようとつとめ、彼らの道徳的標準にならおうとつとめながら、できるだけ多くの自由と少しの危険とをもって、自己流に行なってみるのだった。彼女は選択を急がなかった。すべてを利用するためにすべてをあやなしたがっていた。
 しかしクリストフのような友を相手には、都合よくいかなかった。人が彼を捨てて、彼から尊敬されていない者らを取り、もしくは彼から軽蔑《けいべつ》されてる者らを取ることは、彼も許していた。しかし彼は彼らと同視されることを人に許さなかった。人はそれぞれ自分の趣味をもっている。しかし少なくとも、趣味は一つでなければいけない。
 彼がことに我慢しかねたことは、彼から最も厭《いや》がられるようなくだらない青年ら
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