た。彼女は感動した媚《こ》びある流し目で、彼に感謝した。――しかし彼女の生活は、少しも変化しなかった。ただ一つの気晴らしがふえたにすぎなかった。
彼女の一日は転身の連続だった。非常に遅《おそ》く午《ひる》ごろに起き上がった。不眠症にかかっていて、明け方にならなければ眠れないのだった。昼間は何にもしなかった。一つの詩句、一つの思想、思想の断片、会話の思い出、一つの楽句、自分の気に入った面影、などをとり留めもなく心にくり返した。ほんとうに気分がはっきりしてくるのは、午後の四時か五時ごろからであった。それまでは、眼瞼《まぶた》が重く、顔がむくんで、不機嫌《ふきげん》そうな眠そうな様子をしていた。そして幾人かの親しい友だちが来ると、彼女は初めて元気になった。その友だちらも皆、彼女と同様に饒舌《じょうぜつ》で、彼女と同様にパリーの噂話《うわさばなし》を聞きたがっていた。皆はいっしょになって、際限もなく恋愛を論じた。恋愛の心理、それこそ、化粧や秘密事や悪口などとともに、いつも変わらぬ話題だった。彼女の周囲にはまた、隙《ひま》な青年連中が集まっていた。彼らは日に二、三時間は、女の裳衣《しょうい》の間で過ごさなければ承知しなかったし、裳衣《しょうい》をつけることさえできそうだった、なぜなら、娘らしい魂と話し方とをそなえていたから。クリストフに割り当てられた時間もあった。それは聴罪師の時間だった。コレットはただちに、真面目《まじめ》な考え込んだふうになった。彼女はあたかも、ボドレーが語ってる、懺悔《ざんげ》室における若きフランス婦人のようであった。「その述べたてる事柄は、冷静に準備された問題であって、簡明な整頓《せいとん》と明晰《めいせき》との模範とも称せられるほどで、言わなければならないすべてのことが、正しい順序に配列され、はっきりした種類に区分されていた。」――そのあとで、彼女は前よりもいっそうはしゃいでいた。日が暮れてゆくに従って、ますます若々しくなった。晩には芝居へ行った。いつも変わらぬ同じ顔をそこに見出すのが、いつも変わらぬ楽しみだった。――楽しみ、それは演ぜられてる芝居から受けるのではなくて、よく知ってる癖をまた見て取られる馴染《なじ》みの役者から受けるのであった。また、桟敷《さじき》に会いに来る人たちと、向こう桟敷にいる人々の悪口や、女優らの悪口をかわした。生娘《きむ
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