少あるはずです。」
「あるにはありますわ。私の知ってる人にもありますわ。でも皆|厭《いや》な人ばかりですもの。……それに、ほんとのことを言いますと、自分の生きてる世界が私には不快なのです。けれども今ではもう、この世界を離れて生きられようとは私には思われません。習慣になってしまったのです。ある種の安楽と、それから、もちろん金では買えませんがしかし金がなければ得られない、贅沢《ぜいたく》と社交とのある精練さが、私には必要なのです。それがほんとうに輝かしいものでないことは、私も知っています。しかし私は自分自身をよく知っています。私は弱いんです。……ねえどうぞ、自分のつまらない卑怯《ひきょう》さを私がうち明けたからって、私から離れないでくださいね。私の言うことを快く聴いてくださいね。あなたと話すことはどんなにか私のためになるでしょう! あなたは強くて健全な方だと、私は感じていますの。あなたにすっかり信頼していますわ。少しは私の友だちにもなってくださいな、ねえ。」
「私も望むところです。」とクリストフは言った。「しかし私に何ができましょう?」
「私の言うことを聴いて、私に諭《さと》して、私に力をつけてください。私はむちゃくちゃになることがよくありますの。するともうどうしていいかわからなくなります。『争ったって何になろう? 苦しんだって何になろう? あれだってこれだって同じことだ。だれだって構わない、なんだって構わない!』と自分で考えます。ほんとに恐ろしい心ですわ。そんな心になりたくありません。私を助けてください、助けてくださいね!」
 彼女はがっかりしたふうで、十歳も老《ふ》けたように見えた。従順な懇願的なやさしい眼で、クリストフをながめていた。彼は向こうの望みどおりにすべて誓ってやった。すると彼女は元気づき、笑《え》みを浮かべ、また快活になった。
 そして晩には、彼女はいつものとおりに、笑ったりふざけたりしていた。

 その日以来、二人はきまって親しい話をした。室には二人きりだった。彼女はなんでも思うまま彼へうち明けた。彼はそれを理解して助言してやるのに、たいへん苦心した。彼女はその助言に耳を傾け、場合によっては、ごくおとなしい小娘のように、叱責《しっせき》を真面目《まじめ》くさって注意深く聞いた。それは彼女にとって、憂《うさ》晴らしでもあり、面白くもあり、支持でさえもあっ
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