の役にたつでしょう? 芸術についても――御承知のとおり――私はピアノをたたいたり、つまらないものを書き散らしたり、きたならしい水彩画をかいたりしています――でもそれで生活が充実するでしょうか? 私たちの生活には一つの目的があるばかりです、結婚という目的が。けれども、あなたと同じように私にもよくわかってる、あんな人たちのだれかと結婚するのが、愉快なことでしょうか? 私はあの人たちのありのままの姿を見て取っています。いつでも幻を描くことのできるドイツのグレートヘンたちのようには、私はなることができないのです。……恐ろしいことではありませんか、結婚した女たちや、その結婚の相手の男たちを、自分の周囲にながめて、自分もやがては同じようなことをし、身体や精神をゆがめ、その人たちのように平凡になってしまうのかと、考えてみますのは!……そんな生活やその義務などを甘受するには、確かに克己の精神が必要ですわ。ところがどんな女にもそれができるというわけにはゆきません。……そして時は過ぎてゆき、年は流れ去り、青春は去ってしまいます。それでも、美しいもの、善良なものが、私たちのうちにはあったんですのに――それさえもう、なんの役にもたたず、日に日に死んでゆき、馬鹿な人たちに、人に軽蔑《けいべつ》されまた私たちを軽蔑するような人たちに、我慢して与えてしまわなければならないでしょう。……そしてだれも私たちを理解してはくれません。女は男にとって謎《なぞ》だと言われるかもしれません。そして、私たちをつまらないおかしなものだと思うのも、男の方にはまだ許せます。けれども女の人は私たちを理解してくれてもいい訳です。自分でも私たちと同じだったことがあるんですもの。ただ昔のことを思いだすだけで足りるんですわ。……それなのにまるっきり駄目なんです。少しも力になってはくれません。母親でさえも私たちのことを知りません。ほんとうに私たちを知ろうともつとめません。ただ私たちを結婚させようとばかりしています。その他のことは、生きようと死のうと、勝手にするがいいというのです。社会は私たちをまったくうっちゃっておくのです。」
「力を落としてはいけません。」とクリストフは言った。「人は各自に人生の経験をやり直さなければなりません。勇気があれば万事うまくゆきます。あなたの世界以外に捜してごらんなさい。フランスにはまだりっぱな人が多
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