――森、洞窟《どうくつ》、地下道、死人の室――を通じて、ようやく小島の小鳥が幾羽かもがいてるのみだった。憐《あわ》れなる小鳥よ! かわいい、温《あたた》かい、ちまちまとした小鳥……。あまりに強い光、荒々しい身振りや言葉や熱情、生命、それを彼らはどんなに恐れていることだろう! しかし生命は精練されたるものではない。生命は手袋をもってとらえられるものではない……。
 かかる疲憊《ひはい》した文明を、この瀕死《ひんし》の小さなギリシャを、一掃しつくすような大砲のとどろきが来るのを、クリストフは期待していたのである。

 それにもかかわらず、この作品にたいする同感の念をクリストフに起こさしたのは、傲慢《ごうまん》な憐憫《れんびん》の感情であったろうか? それはとにかく、彼は心ならずも多くの興味を覚えた。芝居の帰りにはシルヴァン・コーンへ向かって、「ごく精巧だ、ごく精巧だ、しかし活気が欠けている、僕にとっては音楽が足りない、」と飽くまで答えはしたものの、フランスの他の音楽的作品とこのペレアス[#「ペレアス」に傍点]とを、いっしょにしないように用心していた。霧の中にともっているその燈火に、心ひかれたのであった。その周囲にはさらに、怪しい他の光がちらついてるのが見えていた。それらの鬼火に彼はいらだたせられた。近づいてその輝きぐあいを知りたかった。しかしなかなかとらえがたかった。それらの自由な音楽家らのものが、彼にはよくわからなかったし、それだけにまたいっそう観察したかったけれど、容易に近づけなかった。クリストフは他人の同情を非常に求めていたが、彼らはそういう要求をもっていないらしかった。一、二の例外を除けば、彼らは人のものをあまり読まず、人のものをあまり知らず、また知ろうともあまり望んでいなかった。ほとんどすべての者が、皆、実際にまたわざと、人を避けた孤独の生活をし、狭い圏内に閉じこもっていた――驕慢《きょうまん》の心から、粗野な性質から、嫌悪《けんお》の情から、又は淡々たる心情から。人数は多くなかったが、敵対した小さな群れに分かれて、いっしょに生きることができなかった。極端な猜疑《さいぎ》心をもっていて、敵や競争者を許さなかったのはもちろんのこと、もし友人が仲間外の音楽家を賞賛したり、またはあまりに冷やかなふうや、あまりに興奮したふうや、あまりに卑俗なふうや、あまりに非常識なふ
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