クリストフにはわからなかった。しかしマンハイムは言いつづけた。
「まず僕の考えでは、五十年ごとに、芸術や思想の大掃除をやらなけりゃいけない、前に存在していたものを少しも存続さしてはいけない。」
「そりゃあ少し過激だ。」とクリストフは微笑《ほほえ》みながら言った。
「いやそうじゃない、まったくだ。五十年というのも長すぎる。まあ三十年でいい……それも長すぎるくらいだ!……その程度が衛生にはいい。家の中に父祖の古物を残しておかないことだ。彼らが死んだら、それを他処《よそ》へ送ってていねいに腐敗させ、決してまたもどってこないように、その上に石を置いとくことだ。やさしい心の者はまた花を添えるが、それもよかろう、どうだって構わない。僕が求むることはただ、父祖が僕を安静にしておいてくれることだ。僕の方では向こうをごく安静にしておいてやる。どちらもそれぞれおたがいさまだ、生者の方と、死者の方と。」
「生者よりいっそうよく生きてる死者もあるよ。」
「いや、違う。死者よりいっそうよく死んでる生者があると言った方が、より真実に近い。」
「あるいはそうかもしれない。だがとにかく、古くてまだ若いものもあるよ。
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