行くよりも同時に左右両方へ広がってい、それから厚い唇《くちびる》、敏活な変わりやすい顔つき、その顔つきで彼は、クリストフの言うことに残らず耳を傾け、その唇の動きを見守《みまも》り、その一語一語に、面白がってる同感的な注意を示し、額《ひたい》や顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》や眼尻《めじり》や、または小鼻や頬《ほお》へかけて、小さな皺《しわ》を寄せ、相好《そうごう》をくずして笑い、時とすると、急にたまらなくなって全身を揺ぶっていた。彼は話に口出しはしなかったが、一言も聞き落さなかった。クリストフが大言壮語のうちにまごつき、スピッツからじらされ、憤激のあまり渋滞し急《せ》き込み口ごもり、やがて必要な言葉を――岩石を見出して、敵を押しつぶすまでやめないのを見ると、彼はことに喜びの様子を示した。そしてクリストフが情熱に駆られて、おのれの思想の埒外《らちがい》にまで飛び出し、とてつもない臆説《おくせつ》を吐いて、相手を怒号させるようになると、彼は無上に面白がっていた。
 ついに一同は、各自に自分の優秀なことを、感じたり肯定したりするのに飽きて、袂《たもと》を分かった。クリス
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