ず、過去[#「過去」に傍点]である時になって人に理解されるということを、是認することができなかった。それよりはむしろ、まったく、いかなる場合にも、決して人に理解されないと、そう思いたかった。そして彼は憤激した。滑稽《こっけい》にも、自分を理解させようとし、説明し、議論した。もとよりなんの役にもたたなかった。それには時代の趣味を改造しなければならなかったろう。しかし彼は少しも狐疑《こぎ》しなかった。否応なしにドイツの趣味を清掃しようと決心していた。しかし彼には不可能のことだった。辛《かろ》うじて言葉を捜し出し、大音楽家らについて、または当の相手について、自分の意見を極端な乱暴さで表白する会話などでは、だれをも説服することはできなかった。ますます敵を作り得るばかりだった。彼がなさなければならないことは、ゆっくりと自分の思想を養って、それから公衆をしてそれに耳を傾けさせることであったろう……。
 そしてちょうど、よいおりに、運――悪運――が向いて来て、その方策を彼にもたらしてくれた。

 クリストフは管絃楽の楽員らの間に交わり、劇場の料理店の食卓につき、皆の気色を害するのも構わずに、芸術上の
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