敵の批評家にも指導されない大部分の公衆からは、沈黙を被《こうむ》ったのである。公衆は自分自身の考えに放《ほう》っておかれると、なんにも考えないものである。

 クリストフは落胆してしまった。
 彼の失敗はしかしながら、何も驚くには当たらなかった。彼の作品が人に喜ばれなかったのには、三重の理由があった。作品はまだ十分に成熟していなかった。即座に理解されるにはあまりに新しかった。それから、傲慢《ごうまん》な青年を懲らしてやることが人々にはきわめて愉快だった。――しかしクリストフは、自分の失敗が当然であると認めるには、十分冷静な精神をそなえていなかった。世人の長い不理解と彼らの癒《いや》すべからざる愚蒙《ぐもう》さとを経験することによって、心の晴穏を真の芸術家は得るものであるが、クリストフにはそれが欠けていた。聴衆にたいする率直な信頼の念と、当然のこととして造作《ぞうさ》なく得られるものと思っていた成功にたいする信頼の念とは、今や崩壊してしまった。敵をもつのはもとよりであると思ってはいた。しかし彼を茫然《ぼうぜん》たらしめたのは、もはや一人の味方をももたないことであった。彼が頼りにしていた人
前へ 次へ
全527ページ中75ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング