りとを吐き出した。神経の発作、涙の洪水、憤激した罵詈《ばり》、クリストフにたいする呪詛《じゅそ》……。閉《し》め切った扉《とびら》越しに、激怒の叫びが聞こえていた。その室にはいることのできた友人らは、そこから出て来ると、クリストフが無頼漢のような振舞いをしたのだとふれ歩いた。その話はすぐ聴衆席へ伝わった。それで、クリストフが最後の楽曲のため指揮台に上がった時、聴衆はどよめいた。しかしその楽曲は彼のではなかった。オックスの祝典行進曲だった。その平板な音楽に安易を覚えた聴衆は、大胆に口笛を鳴らすほどのことをしないでも、クリストフにたいする非難を示すべき最も簡単な方法を取った。彼らは大|袈裟《げさ》にオックスの作を喝采し、二、三度作者を呼び出した。オックスはそのたびにかならず姿を現わした。そして、それがこの音楽会の終わりだった。
読者のよく推察するとおり、大公爵や宮廷の人々――饒舌《じょうぜつ》でしかも退屈してるこの田舎《いなか》の小都会の人々――は、右の出来事の些細《ささい》な点をも聞きもらさなかった。女歌手の味方である諸新聞は、事件には言及しなかったが、筆をそろえて彼女の技倆《ぎりょう
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