価値を絶する大発見を一人胸に秘めたく思わない者のように、ドイツの芸術にたいする自分の考えをだれ構わずにもらしては満足していた。そして相手の不満を招いてるとは想像だもしなかった。定評ある作品の愚劣さを認めると、もうそのことでいっぱいになって、出会う人ごとに、専門家と素人《しろうと》とを問わず、だれにでも急いでそれを言って聞かした。顔を輝かしながら最も暴慢な批評を述べたてた。最初人々は本気に受け取らなかった。彼の気まぐれを一笑に付した。しかしやがて、彼が厭《いや》に執拗《しつよう》にあまりしばしばくり返すのを気づいた。彼がそれらの僻論《へきろん》を信じていることは明らかになった。それにたいしては前ほどは笑えなかった。彼は冒涜《ぼうとく》者だった。演奏の最中に騒々しい嘲弄《ちょうろう》を示したり、あるいは光栄ある楽匠らにたいする軽蔑《けいべつ》の念を述べたてた。
何事もみな小さな町じゅうに伝わった。彼の一言も取り落とされはしなかった。人々はすでに、前年の行ないについて彼を憎んでいた。アーダといっしょなところを公然と見せつけた破廉恥なやり方を忘れていなかった。彼自身はもう覚えてはいなかった。
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