取り上げたものは、種々の俚諺《りげん》、時としては、通りがかりに耳にした言葉、市井《しせい》の会話の断片、子供の考え――たいていは拙《つたな》い散文的な文句ではあるが、しかしまったく純な感情がその中に透かし見られるものだった。そういうものになると、彼は楽々とやってのけた。そして自分では気づかないでいる一種の深みに到達していた。
 彼の作品にはよいものも悪いものもあり、たいていはよいものより悪いものの方が多かったが、その全体について言えば、生命があふれていた。それでもすべて新しいものではなかった、新しい所ではなかった。クリストフは誠実のためにかえって平凡になることが多かった。すでに用いられてる形式をくり返すことがよくあった。なぜなら、それは彼の思想を正確に現わしていたし、また彼はそういう感じ方をしていて、異なった感じ方をしていなかったからである。彼は少しも独創的たらんことを求めなかった。独創的たらんと齷齪《あくせく》するのは凡庸《ぼんよう》なるがゆえである、と彼には思えた。彼は自分が実感してることを言おうと努めて、それがすでに前に言われていようといまいと、少しも気にしなかった。しかもそれ
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