あれほど峻厳だったのは、自分自身にたいして峻厳だったからである。彼以上に彼らを愛したものがあったろうか? シューベルトの温良さ、ハイドンの無邪気さ、モーツァルトの情愛、ベートーヴェンの勇壮偉大な心、それを彼以上によく感じたものがあったろうか? ウェーベルの森の戦《そよ》ぎの中に、または、北方の灰色の空に、ドイツ平原のはるかに、石の巨体と見通し尖頂《せんちょう》の大きな塔をそばだてている、ヨハン・セバスチアンの大|伽藍《がらん》の大きな影の中に、彼以上に敬虔《けいけん》な情をもって身を潜めた者があったろうか?――しかしながら彼はまた、彼らの虚偽を苦しんでいた。それを忘れることができなかった。そして彼らの虚偽を民族に帰し、彼らの偉大さを彼ら自身に帰したのであった。彼は間違っていた。偉大な点も弱点も、等しく民族に属するものである。この民族の力強い混沌《こんとん》たる思想は、音楽や詩の大河となって逆巻《さかま》き、全ヨーロッパはその河水を飲みに来る。――実際彼は、今彼をしてかくも峻烈《しゅんれつ》に民衆を非難せしめている率直な純真さを、他のいかなる民衆のうちに見出し得たであろうか?
彼はそれ
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