でいた。ドイツは、その老耄《ろうもう》なまた幼稚な芸術を、解き放された畜生ともったいぶった気取りやの小娘との芸術を、歓《よろこ》び楽しんでいた。
そしてクリストフ自身も、いかんともできなかった。彼はそういう音楽を聞くや否や、他人と同じく、他人よりももっとはなはだしく、音の急湍《きゅうたん》とそれを繰り出す作者の悪魔的意志とにとらえられた。彼は笑った、うち震えた、頬《ほお》を熱《ほて》らした。騎馬の軍隊が自分のうちを通るのを感じた。そういう暴風をおのれのうちにもってる人々には、すべてが許されてると考えた。もはやうち震えながらしか繙《ひもと》くことのできない神聖な作品のうちに、愛していたものの純潔さを何物にも曇らされることなく、昔と同じ激しい感動をふたたび見出す時、いかに彼は喜びの叫びをたてたことだろう! それは彼が難破から救い上げた光栄ある残留品だった。なんたる仕合わせぞ! 自分自身の一部を救い出したような気持だった。そして実際、それは彼自身ではなかったであろうか? 彼が憤激して非難したそれらドイツの偉人は、彼の血、彼の肉、彼の最も貴い存在、ではなかったであろうか? 彼が彼らにたいして
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