、それが眼についた。そして心ならずも見つづけていた。ピザのヴェルゴニョザ[#「ヴェルゴニョザ」に傍点]のように、指の間からのぞいていた。
彼は赤裸々なドイツ芸術を見た。すべての者が――偉大な者も愚かな者も――一種感傷的な慇懃《いんぎん》さで自分の魂を披瀝《ひれき》していた。感動があふれ、高尚な道徳心が滴《したた》り、心をこめて夢中に感情が吐露されていた。恐るべきゲルマン多感性の水門が、切って放たれていた。その多感性は強者の元気を希薄にし、弱者を灰色の水の下におぼらしていた。一つの汎濫《はんらん》であった。ドイツの思想がその底に眠っていた。しかも、メンデルスゾーン式の、ブラームス式の、シューマン式の思想は、また引きつづいては、誇張的な空涙的な歌曲のちっぽけな作者たち一団の思想は、往々にしてなんたるものであったか! 皆砂でできていた。一つの岩もなかった。湿った怪しげな土器であった……。それらは皆、いかにもくだらない幼稚きわまるものだったので、全聴衆がそれにびっくりしていなかろうとは、クリストフには信じ得られないほどだった。ところがまわりをながめると、安泰そうな顔つきばかりだった。聞いてる
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