鶯《うぐいす》かと思われるように、私は吼えてみせます。
クリストフは初めから耳を傾けながら、次第に呆気《あっけ》にとられてきた。そういうものは彼にとっては少しも珍しいものではなかった。それらの音楽会、管弦楽団、聴衆、それを彼はよく知っていた。ところが今にわかに、そのすべてが嘘《うそ》であるように思われた、すべてが、最も好んでいたものまでが、エグモント[#「エグモント」に傍点]の序曲までが。その荘麗な混乱と正確な紛擾《ふんじょう》とは、今は誠実を欠いてるかのように彼の気色を害した。もちろん彼が聞いたのは、ベートーヴェンやシューマンではなく、その滑稽《こっけい》な演奏者らであり、その鵜呑《うの》みにしたがってる聴衆であって、彼らの濃厚な馬鹿《ばか》さ加減は、重々しい雲のように作品のまわりに立ちこめていた。――がそれはそれとして、作品の中にも、最もりっぱな作品の中にさえも、クリストフがまだかつて感じたことのないある不安なものがこもっていた。――いったいそれはなんであるか? 彼は愛する大家を論議することの不敬を考えて、それをあえて分析して考察することができなかった。しかしいくら見まいとしても
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