なイフィゲニアであって、英雄らに訓戒をしたり、猛烈な勢いでしゃべりたてたり、ニーチェ流の悲観思想を公衆にぶちまけたりしたあげく、死に酔いながら、哄笑《こうしょう》しつつ自殺するのであった。
 このギリシャ式の服をまとってる廃頽《はいたい》した東ゴートの気障《きざ》な文学ぐらい、クリストフの精神に相反するものはなかった。しかし彼の周囲の者は傑作だと称賛していた。彼は卑怯《ひきょう》だった。皆の意見に説き伏せられた。しかし実を言えば、彼は音楽で頭がいっぱいになっていて、原文のことよりも音楽のことを多く考えていた。原文は彼にとって、自分の熱情の波をみなぎらすべき川床だった。詩の作品を音楽に翻訳せんとする者が当然もつべき自制と知的無私との状態から、彼はこの上もなく遠ざかっていた。彼は自分のことだけを考えて、作品のことはまったく考えなかった。作品に順応しようともしなかった。そのうえ彼は幻をいだいていた。詩を読んでも、その中にあることとはまったく別なことを思っていた。ちょうど少年時代と同じように、眼前の作品とはまったく異なった作品を頭の中にこしらえ上げてしまった。
 彼が現実の作品に気づいたのは、
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