稽《こっけい》なことを、彼は毎日見ていたので、詩にたいする自分の無能を(心の底では多少信じかねながらも)あきらめていた。そして、この方面では自分より教養があると思われる人々の意見を、眼をつぶって傾聴していた。それだから彼は、雑誌の友人らが説くところに従って、一人の協力者を承諾した。それはシュテファン・フォン・ヘルムートという廃頽《はいたい》派の大詩人であって、彼のもとへ自作のイフィゲニア[#「イフィゲニア」に傍点]をもって来た。当時はちょうど、ドイツの詩人らが――(フランスの詩人らと同じく)――ギリシャのあらゆる悲劇を改作してる最中だった。シュテファン・フォン・ヘルムートの作品も、イプセンやホメロスやオスカー・ワイルドなどが――もちろん二、三の考古学的小著をも取り入れて――たがいに混合してるという、あの奇体なギリシャ・ドイツ折衷式脚本の一つであった。アガメムノンは神経衰弱者であり、アキレスは無気力者だった。彼らは長々と身の上を嘆いていた。そしてもとより、彼らの苦情はなんの役にもたたないものだった。劇の力はすべてイフィゲニアの役に集中されていた。――神経質でヒステリーで衒学《げんがく》的
前へ 次へ
全527ページ中235ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング