した大なる主題と、彼自身の知らないまったく異なった意味をもってる粗野な力とを、無理に並列さしたものにすぎなかった。

 彼は自分のうちで相衝突してるたがいに矛盾せる力に駆られながら、また、描出することはできないが、しかし誇らかな喜びをもって感ぜらるる沸きたった力強い生命を、支離滅裂な作品にやたらに投げ込みながら、頭を下げて手探りに進んでいった。
 自分の新たな力を意識した彼は、自分の周囲にあるものを、尊重するように言い聞かせられてるものを、文句なしに尊敬してるものを、初めて正視することができた。――そして彼はただちに、傲慢《ごうまん》な自由さをもってそれを批判した。覆面は裂けた。彼はドイツの虚偽を見た。
 いかなる民族にも、いかなる芸術にも、皆それぞれ虚構がある。世界は、些少《さしょう》の真実と多くの虚偽とで身を養っている。人間の精神は虚弱であって、純粋|無垢《むく》な真実とは調和しがたい。その宗教、道徳、政治、詩人、芸術家、などは皆、真実を虚偽の衣に包んで提出しなければならない。それらの虚偽は各民族の精神に調和している。各民族によって異なっている。これがために、各民衆相互の理解がきわ
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