かってきても、その意味を解き得ないことがしばしばあった。その観念は、「存在」の底深いところから、識域を越えたはるかの彼方《かなた》から、にわかに迸《はとばし》り出て来るのだった。そして普通の尺度を越えたまったく純粋なその「力」のうちには、意識といえども、自分に関係ある事柄を、自分が定義し分類すべき人間的感情を、少しも認めることができなかった。喜びも悲しみもことごとく、ただ一つの熱情のうちに交っていた。しかもその熱情は理知を超越したものであったから、とうてい理解しがたかった。それでも、理解するしないにかかわらず、理知はその力に一つの名前を与えたがり、人がおのれの頭脳の巣の中に営々として築いてゆく論理組織の一つに、それを結びつけたがっていた。
 それでクリストフは、自分の心を乱すその陰闇《いんあん》な力には一定の意味があり、しかもその意味は自分の意志と調和してるものだと、確信していた――確信したがっていた。深い無意識界から迸り出て来る自由な本能は、それとなんら関係のない明確な観念と、理性の軛《くびき》の下において、否応なしに連絡させられていた。かくてそういう作品は、クリストフの精神が描き出
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