があるだろうか?――彼は傲慢《ごうまん》にもそういう考えをしりぞけ、そしてみずから言った。「この力こそ、俺《おれ》自身だ。この力がもうなくなる日には、俺ももう存在すまい。俺は自殺してやろう。」――彼は身体の震えが止まなかった。しかしそれもやはり悦びだった。
けれども、当分泉の涸《か》れる憂いはなかったにしても、クリストフはすでに、その泉が作品全体を養うには足りないことを知り得た。観念はたいていいつも、生地《きじ》のままで現われてきた。それを母岩から分離させることに骨折らなければならなかった。また観念はいつも、躍《おど》り立ちながらなんらの連絡もなく現われてきた。それをたがいに連絡させるためには、慎重な理知と冷静な意志との一要素を加味して、新しい一体に鍛え上げなければならなかった。クリストフはきわめて芸術家的だったので、それをしないではなかった。しかしそう是認したくはなかった。内心のモデルをそのまま謄写してると無理にも思い込んでいた。しかし実はそれを読みやすくするために、多少の変更を余儀なくせしめられていた。――否その上に、意味を曲解することさえもあった。音楽的観念がいかに猛然と襲いか
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