ていた。半ば眼瞼《まぶた》を閉じ、うとうとしながら、車室の片隅《かたすみ》によりかかって、彼は自分の眼の上に彼女の眼の接触を感じていた。そしてそれをなおよく感ずるために、あらゆる他の考えは沈黙してしまった。窓ガラスの外側で羽ばたきしてる昆虫《こんちゅう》のように、コリーヌの面影が彼の心の外で飛び回っていたが、彼はそれを心の中にはいらせなかった。
汽車が向こうに着いて車室から出で、夜のさわやかな空気を吸い寝静まった街路を歩いて、ようやくはっきりした気持になった時、彼はまたコリーヌの面影を見出した。彼女のやさしい様子や卑しい媚《こ》びを思い出すにつれて、喜びといらだちとの交った気持で、その可憐な女優のことを考えては微笑《ほほえ》んだ。
「しようのないフランス人だ!」と彼は低い笑いとともにつぶやきながら、そばに眠っている母が眼を覚《さ》まさないように、そっと着物をぬぎかけた。
すると先夜|桟敷《ボックス》の中で聞いた一語が、ふと頭に浮かんできた。
「そうでない者もいます。」
彼は初めてフランスに接触してから、その二重性質の謎《なぞ》をかけられた。しかしあらゆるドイツ人と同じく、彼は謎を
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