質は、その天分を少しも惜しむところなく発揮し、客間的な美や書籍上の明知をこしらえることには興味をもたないが、しかし心身ともに日の光に花を開くべきなごやかな人物をこしらえて喜ぶのである。――彼が帰りかけると、彼女は食卓を離れ、他人をぬきにして別れを告げた。二人はまた抱擁し合い、手紙の往復と再会との約束をくり返した。
 彼は最終の列車に乗って帰途についた。中間のある駅で、反対の方から来た列車が待っていた。ちょうど自分の正面に止まってる車室――三等車の中に、クリストフは、ハムレット[#「ハムレット」に傍点]の芝居でいっしょになったあの若いフランスの女を認めた。彼女の方でもクリストフの姿を見て、見覚えていた。二人ともびっくりした。黙って会釈をしたが、それ以上顔を見合わしかねて身動きもしなかった。けれどもクリストフは、彼女が小さな旅行帽子をかぶって古い鞄《かばん》をそばに置いてるのを、一目で見て取ったのだった。それでも、彼女が国を去ろうとしてるのだとは思いつかなかった。ただ数日の旅だろうと考えた。彼は彼女に話しかけてよいかどうかわからなかった。彼は躊躇《ちゅうちょ》した。言いたいことを頭の中で用
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