散らされてるつまらない事柄にたいする倦怠《けんたい》や、コリーヌが手当たりしだいの人に浴びせかけてる揶揄《やゆ》にたいする憤懣《ふんまん》も、彼はあまり多く示さないでいられた。そんなことを彼女に恨むわけにはゆかなかった。彼女はとにかくしたたかな娘で、道徳心もなく、怠惰で、肉感的で、快楽を好み、くだらない愛嬌《あいきょう》をふりまいてばかりいたが、しかし同時に、いかにも公明であり、いかにも善良であって、そのあらゆる欠点も自然で健やかなために、笑って済まさざるを得ないし、ほとんど愛せざるを得なかったのである。しゃべりつづけてる彼女の正面にすわって、クリストフは、イタリー式の微笑――温和さと機敏さと貪食《どんしょく》的な重々しさとのこもった微笑をたたえてる、その元気な顔、輝いてる美しい眼、ふくらみ加減の顎《あご》、などをながめていた。彼はかつてそれほどはっきり彼女を見たことがなかった。ある特徴が彼にアーダを思い起こさした。身振り、眼つき、多少露骨で肉感的な狡猾《こうかつ》さ――すなわち永遠の女性的なところが。しかし彼女のうちに彼が愛してるものは、南欧の性質であった。南欧の寛濶《かんかつ》な性
前へ 次へ
全527ページ中222ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング