別に遺憾と思わないことや、ユーディット・マンハイム嬢との会話だけでその招待の一夜には十分であるということを、他に悪意のない無作法な様子で明らさまに見せつけていたので、ロタール老人は面白がって、暖炉の片隅にすわり込んでいた。そして新聞を読みながら、皮肉な耳をぼんやり傾けて、クリストフの訳のわからない言葉とその奇怪な音楽とを聞いていた。そんな音楽を理解して喜びを感ずるような人があるかと思っては、おりおりひそかな笑いをもらしていた。もはや会議の筋道についてゆくだけの労をも取らなかった。新来の客の真価を知ることは、娘の知力に一任していた。彼女は真面目《まじめ》にその役目を果たしていた。
クリストフが帰ってゆくと、ロタールはユーディットに尋ねた。
「やあ、かなり本音を吐かせたようだね。どう思う、あの音楽家を?」
彼女は笑い、ちょっと考え込み、一言にまとめて、言った。
「少し足りないところがあるようですが、でも馬鹿じゃありませんわ。」
「なるほど、」とロタールは言った、「わしもそう思った。で、成功するだろうかね?」
「するでしょうよ、しっかりしてますわ。」
「それは結構だ。」とロタールは、強者
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