にのみ加担する強者のりっぱな理論をもって言った。「では助けてやらなくちゃいけまい。」
クリストフの方では、ユーディット・マンハイムにたいする賛美の念をもち帰った。けれども彼は、ユーディットがみずから思ってるほど心を奪われてはいなかった。二人とも――彼女はその慧敏《けいびん》さによって、彼は知能の代わりとなってる本能によって――等しく相手を見誤っていた。クリストフは、彼女の顔貌《がんぼう》の謎《なぞ》と頭脳生活の強烈さとに蠱惑《こわく》されていた。しかし彼女を愛してはいなかった。彼の眼と理知とはとらえられていたが、彼の心はとらえられていなかった。――なぜか?――それを説明するのはかなり困難に思える。彼女のうちに曖昧《あいまい》な気懸《きがか》りな何かを、認めたからであったろうか? しかしそれは他の場合であったら、彼にとっては、ますます愛するようになるべき一つの理由であるはずだった。恋愛は、苦しい破目に陥ってゆくことを感ずる時、ますます強烈になってゆくものである。――クリストフがユーディットを愛しなかったとしても、それは二人のどちらの罪でもなかった。愛しない真の理由は、二人のいずれにと
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