はあるがしかし頑健《がんけん》果敢な一つの力を、クリストフのうちに見出した。彼女は力の稀有《けう》なことをだれよりもよく知っていたから、それを喜んだ。彼女はクリストフに口をきかせ、その思想を開き示させ、その精神の範囲と欠点とをみずから示させることができた。また彼にピアノをひかせた。彼女は音楽を好きではなかったが、理解はあった。そしてクリストフの音楽からいかなる種類の情緒をも起こさせられはしなかったけれども、その独創の点を見て取った。そして慇懃《いんぎん》な冷淡さを少しも変えないで、決してお世辞でない簡単正当な二、三の意見を言ったが、それは彼女がクリストフに興味を覚えてることを示すものだった。
クリストフはそれに気づいた。そして得意になった。なぜなら、そういう批判がいかに価値あるかを、また彼女は滅多に賞賛することがないということを、感じたからである。彼は彼女の好意を得たいという欲求を隠さなかった。そしていかにも無邪気にそれをつとめたので、三人の主人らを微笑《ほほえ》ました。もはやユーディットへしか、そしてユーディットのためにしか、彼は口をきかなかった。他の二人へは少しも取り合わないで、
前へ
次へ
全527ページ中108ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング