彼女は、彼女をながめてるクリストフをながめていた。ほとんど口をきかなかった。口の片隅《かたすみ》にかすかな微笑を見すれば、それでもう十分だった。クリストフは魔睡させられてしまった。その微笑が消えると、彼女の顔は冷静になり、眼は無関心になった。彼女は給仕の方に気を配って、冷やかな調子で召使に言葉をかけた。もう何も聞いていないかのようだった。それから、眼がまた輝いてきた。そして的確な三、四語は、彼女が残らず聞いて理解していることを示した。
彼女はクリストフにたいする兄の批評を、冷静に点検してみた。彼女はフランツが法螺《ほら》吹きなのを知っていた。美貌《びぼう》であり上品であると兄が吹聴《ふいちょう》していたクリストフの現われるのを見た時、彼女の皮肉な心は好機に接した。――(フランツは明瞭《めいりょう》な事実の反対を見るのに特殊な才をもってるかのようだった。もしくは、反対を信じて矛盾の面白みを味わってるようだった。)――しかしながら、なおよくクリストフを研究してみると、フランツの言ったことは嘘《うそ》ばかりでもないということを、彼女は認めた。そして発見の歩を進めるに従って、まだ不定不均衡で
前へ
次へ
全527ページ中107ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング