な頭脳を有してるとしても、また、兄よりもすぐれて銀行家ロタール・マンハイムの真の後継者となり得るとしても、抽象的な知力を好んでるのではなかった。生きたる知力の方を、男子にたいして働かし得る知力の方を、彼女は好んでいた。彼女の楽しみとするところは、人の魂を洞察《どうさつ》することであり、その価値を測定することであった。――(この測定に彼女は、マトシスのユダヤの女[#「ユダヤの女」に傍点]が貨幣を測ってるのと、同じくらい細心な注意をこめていた。)――彼女は驚くべき洞察力によって、鎧《よろい》の隙間《すきま》を、魂の秘鑰《ひやく》たる欠点弱点を、たちまちのうちに見出し、秘訣《ひけつ》を握ることを、よく知っていた。これが、他人を征服する彼女の方法であった。しかし彼女は、その勝利に長くかかわってはいなかった。獲物をなんとかしようとはしなかった。好奇心と自負心とが一度満足すれば、彼女はすぐに興味を失って、他のものへと移っていった。そのあらゆる力は、何物をももたらさなかった。かくも生々たるこの魂の中には、死が宿っていた。彼女は自分のうちに、好奇心と倦怠《けんたい》との天才をそなえていた。

 かくて
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