とがなかった。
それで彼にとっては、マンハイム家の晩餐《ばんさん》は、新奇な魅力と禁ぜられた果実の魅力とをそなえていた。その果実を与えてくれるイーヴのせいで、それがいっそう美味になっていた。クリストフはそこにはいって行った瞬間から、ユーディット・マンハイムにばかり見とれていた。彼女は、彼がその時までに知っていたあらゆる女とは、違った種類のものだった。丈夫な骨格にかかわらず多少|痩《や》せ形の高いすらりとした姿、多くはないがしかし房々《ふさふさ》として低く束ねられてる黒髪、それに縁取られてる顔、それに覆《おお》われてる顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》と骨だった金色の額《ひたい》、多少の近視、厚い眼瞼《まぶた》、軽く丸みをもった眼、小鼻の開いたかなり太い鼻、怜悧《れいり》そうにほっそりした頬、重々しい頤《あご》、かなり濃い色艶《いろつや》、そういうものをもってして彼女は、元気なきっぱりした美しい横顔をしていた。正面《まとも》に見れば、その表情は少し曖昧《あいまい》で不定で複雑だった。眼と顔とが不|釣《つ》り合《あ》いだった。彼女のうちには、強健な民族の面影が感ぜられ
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