のだった。
クリストフが、晩にマンハイム家へ行って御馳走《ごちそう》になるのだと告げた時、彼女は彼になんとも言いかねた。しかし多少心を痛めた。彼女の考えでは、ユダヤ人にたいする人々の悪口をすっかり信じてはいけないし――(世間の人はだれの悪口でも言うのである)――どこにでもりっぱな人たちがいるものではあるが、しかしそれでも、ユダヤ人はユダヤ人の方で、キリスト教徒はキリスト教徒の方で、それぞれ敷居をまたぎ越さない方が、いっそうよくいっそう好都合なのだった。
クリストフは少しもそういう偏見をもってはいなかった。周囲にたえず反発したい気性から、彼はむしろその異民族に心ひかれていた。しかし彼はほとんどその民族を知らなかった。彼が多少の交渉をもっていたのは、ユダヤ民族の最も卑俗な成分とばかりだった。すなわち、小さな商人、ライン河と大会堂との間の小路にうようよしてる下層民らで、彼らは皆、あらゆる人間のうちにある羊の群れみたいな本能をもって、一種の小ユダヤ町を建設しつづけていた。クリストフはしばしば、その一郭を歩き回っては、物珍しいまたかなり同情のある眼で、さまざまの型《タイプ》の女を通りがかりに
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