らが神を十字架につけたことを悲しげに思い出した。そして彼は、その融和しがたい感情をどうして融和すべきかを知らなかった。が結局、彼は、二人を抱擁した。二人は非常に音楽を愛していたから、神も彼らを許してくださるだろうと、彼はおのずから信じがちだった。――クリストフの父のメルキオルは、自由思想家をもってみずから任じていただけに、ユダヤ人から金を取ることをさほど懸念しなかった。ごく結構なことだとさえ思っていた。しかし彼は、ユダヤ人を罵倒《ばとう》し軽蔑《けいべつ》していた。――クリストフの母は、料理人としてユダヤ人の家に雇われて行くと、悪いことをしたと思わないではなかった。そのうえ、彼女を雇った人々は、彼女にたいしてかなり横柄であった。それでも彼女は、それを彼らに恨まず、だれにも恨まず、神から永劫《えいごう》の罰を受けたそれらの不幸な人々にたいして、憐憫《れんびん》の情でいっぱいになっていた。その家の娘が通るのを見かけたり、あるいは子供らのうれしそうな笑い声を聞いたりすると、深く心を動かした。
「あんなに美しい娘が!……あんなにきれいな子供たちが!……なんという不幸だろう!……」と彼女は考える
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