て、その自働機械的な職務以外においては、ただ怠惰《たいだ》に日を送り、酒を飲み、賭博《とばく》をし、負債をこしらえ、他人から補助を仰ぎ、たがいに悪口をし合い、その階級の上下を問わず皆、自分より下位の者にたいして権力を濫用するのであった。クリストフは、他日彼らの下に服従しなければならないかと思うだけでも、喉《のど》をしめつけられる心地がした。彼らから侮辱と不正とを被《こうむ》ってる、不名誉きわまる自分の姿を見ることは、堪えられなかった、断じて堪えられなかった……。彼らのうちのある者らが有してる精神上の偉大さを、彼は知らなかった。彼らがみずから苦しんでるところのものを、彼は知らなかった。失われた幻、悪用され濫用された、多くの力や青春や名誉や信念や犠牲の熱望――無意義な職業。もしそれが単に一つの職業であるとするならば、犠牲を目的としないものであるとするならば、それはもはや一つの哀れな活動にすぎないし、無能な道化《どうけ》にすぎないし、みずから信ぜずして口先で唱える範例にすぎないのである。
 クリストフはもはや祖国では満足しきれなかった。潮の干満のように一定の時期において、ある種の鳥のうちに突然不可抗的に眼覚《めざ》めてくるあの不思議な力を、彼は自分のうちに感じていた――それは大移住の本能であった。シュルツ老人から遺贈されたヘルデルやフィヒテの書物を読みながら、彼はその中に自分と同じ魂を見出した――土塊に執着してる土地の子[#「土地の子」に傍点]をではなく、光の方へ向かざるを得ない精神[#「精神」に傍点]を、太陽の子[#「太陽の子」に傍点]を。
 どこへ行くべきか? 彼はそれを知らなかった。しかし彼の眼はラテンの国たる南欧に注がれていた。そしてまずフランスに。混乱に陥ったドイツのいつもの避難所たるフランス。ドイツ思想はフランスを悪口しつづけながらも、幾度その世話になったことであろう! 一八七〇年以後においてさえ、ドイツの砲火の下に焼かれ破砕されたその大都市から、いかなる魅力が発してきたことであるか! 思想および芸術の最も革命的な形式も最も復古的な形式も、順次にまたは時として同時に、実例や霊感やをそこに見出したのである。クリストフもまた、ドイツの大音楽家らの多くが逆境に陥った時と同じく、パリーの方を振り向いた……。彼はフランス人についてどれだけ知っていたか?――二人の女の顔と
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