すべての者のうちに右の感情を見出した。上にはシルレルのウィルヘルム・テルがいた。人夫のような筋骨をもってる厳格なこの小市民は、自由なユダヤ人ベールネが言ったように、「ゲスレル閣下の帽子柱の前を[#「ゲスレル閣下の帽子柱の前を」に傍点]、その帽子を見なかったし敬礼の命令にそむいたのでもないということを証明するため[#「その帽子を見なかったし敬礼の命令にそむいたのでもないということを証明するため」に傍点]、眼を伏せて通りながら[#「眼を伏せて通りながら」に傍点]、名誉と恐怖とを妥協せしめんとした[#「名誉と恐怖とを妥協せしめんとした」に傍点]。」降《くだ》っては七十歳の敬すべき老教授ヴァイセがいた。彼は町で最も名誉な学者の一人だったが、一人の中尉殿[#「中尉殿」に傍点]が来るのを見ると、急いで歩道の高みを向こうに譲って、車道へ降りて行くのであった。クリストフは、常住卑屈のかかるつまらない行為を見ると、血が湧《わ》きたつのを覚えた。卑下したのはあたかも自分自身であるかのように、苦しい思いをした。往来ですれちがう将校らの傲慢《ごうまん》な様子は、彼らの横柄《おうへい》な鯱子張《しゃちこば》り方は、彼にひそかな憤怒《ふんぬ》の念を与えた。彼は彼らに少しも道を譲る様子を見せなかった。通り過ぎる時には彼らと同じように傲慢な眼つきで見返した。も少しで喧嘩《けんか》をひき起こしかけたことも一度ならずあった。あたかも彼は喧嘩を求めてるかのようだった。けれども彼は、そういう空威張《からいば》りの危険な無益さを認むることにおいては、あえて人後に落つるものではなかった。ただ時々彼はめちゃな気持になるのであった。たえず自制していたので、また頑強《がんきょう》な力が鬱積《うっせき》して少しも費やされなかったので、そのためにいらだってきた。するともうどんな馬鹿げた事でもやりかねなかった。もう一年もこの地にいたら自分は破滅するだろう、というような気がしていた。自分の上にのしかかってくる野蛮な軍国主義、舗石の上に鳴ってる佩剣《はいけん》、多くの叉銃《さじゅう》、砲口を町の方へ向けて発射するばかりになってる、兵営の前の大砲、それらのものに彼は憎悪の念をいだいていた。当時評判の高かった卑猥《ひわい》な小説は多く、大小を問わずあらゆる兵営内の腐敗を暴露《ばくろ》していた。将校らは皆悪徳の人物として描かれてい
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