かった。しかしそれは、彼の気を落ち着けさせ彼を手もとに引き留める一つの方法だったので、彼女は彼が満足しさえすればそれで非常に幸福だった。
クリストフは、よく知られた種類の安心できる曲を、世に発表することをしないで、非常に愛着してるごく個性的な一連の作品を、原稿の中から選んだ。それはピアノの曲であって、ごく短い大衆的なものやごく込み入ったほとんど劇的なものなど、種々の歌曲が入り交っていた。全体が時には楽しい時には悲しい一連の印象を形造っていて、それらの印象はごく自然に相連続し、順次にピアノ独奏と単独もしくは伴奏付の独唱とで演奏さるべきものとなっていた。「なぜなら、」とクリストフは言っていた、「私は夢想する時、常に自分の感じてることだけを表白しはしない。私は言葉にそれと言わないで、苦しんだり喜んだりする。しかし、それを言わないではおられない瞬間も、別になんの考えもなく歌わないではおられない瞬間も、やってくる。時としては、ぼんやりした言葉、取り留めもない文句、にすぎないこともある。時としては、まとまった詩のこともある。それからまた、私は夢想を始める。そういうふうにして一日は過ぎ去る。そして実際、私が表現しようと思ったのは、一日をである。何故に、歌あるいは前奏曲ばかりを集めるのか? それほど不自然で不調和なものはない。魂の自由な動作を伝えようとつとめなければいけない。」――それで彼は、その一連の集を一日[#「一日」に傍点]と名づけた。その各部分には、内心の夢想の連続を簡単に示す小題がついていた。クリストフはそこに、ひそかな捧呈《ほうてい》文や頭字や日付などを書いておいた。それは彼一人にしかわからないものであって、彼に過去の詩的な時を思い起こさせるものであり、あるいは、にこやかなコリーヌ、弱々しいザビーネ、名を知らぬ若いフランスの女など、愛する人々の面影を思い起こさせるものであった。
右の作品以外に、歌曲《リード》の中から――彼には最も気に入り従って公衆には最も気に入らぬものの中から、三十曲ばかりを彼は選んだ。最も「旋律的」な旋律《メロディー》を選ばないように用心して、最も独自性あるものを選んだ。――(人の知るとおり、世人は「独自性ある」ものをいつも非常に恐れる。性格のないものの方が彼らにはよく似てるのである。)
それらの歌曲《リード》は、十七世紀の古いシレジアの詩人ら
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