たのかもうわからない。作品のうちに自分の姿を認めることもなかなかできない。それはほとんど見知らぬ者である。できるならば忘れてしまいたくなる。しかも、作品が発表されるか演奏されるかしないうちは、世の中の独自の生活を得ないうちは、忘れることは不可能である。そうなるまでは、作品は母体に結びつけられてる赤児《あかご》であり、生きた肉体に鋲《びょう》付けされてる生けるものである。生きんがためには、それを切断しなければいけない。クリストフが多く作曲すればするほど、彼から生まれ出て生きることも死ぬこともできないでいるそれら生物の圧迫が、彼のうちに増大していった。だれがこの圧迫から彼を解放してくれるであろうか。一つの人知れぬ力が、それらの彼の思想の児らを突き動かしていた。風に運ばれて宇宙に広がる根強い種子のように、それらは彼から離れて他の魂の中に広がろうと、むりやりに切望していた。クリストフは無生産のうちに閉じこもっていなければならないのであろうか? そんなことだったら彼は憤激するに違いなかった。
あらゆる出口は――芝居も音楽会も――彼にたいして閉ざされていたし、また彼は、一度拒絶された支配人らに新たな申し込みをするほど、どんなことがあっても身を屈したくなかったので、今はもはや、書いたものを出版するだけの方法しか残っていなかった。しかしながら彼は、自作を演奏してくれる管弦楽団よりも、自作を出版してくれる本屋の方が見出しやすいとは、自惚《うぬぼ》れることができなかった。いかにも拙劣な二、三の運動を試みたが、それだけでもう明瞭《めいりょう》だった。彼は新たな拒絶に出会ったり、あるいはそれらの商売人と議論し彼らの保護者的な態度を我慢するよりは、むしろ自費出版の方法を取った。それは狂気の沙汰《さた》だった。彼は宮廷の給料や音楽会などから得た少しの貯蓄をもっていた。しかし今はそれらの財源がすべて涸《か》れていて、他の財源を見出すまでには長くかかるかもしれなかった。十分慎重な態度を取って、当面の困難な時期を過ごす助けとなるべきその小貯蓄は、節約しておかなければいけなかった。ところが、彼はそうしなかったばかりではなく、その貯蓄では出版費用に足りなかったので、平気で借金をした。ルイザはなんとも言い兼ねた。彼女は彼を無鉄砲だと思い、また、書物の上に自分の名前を見るために金を費やす理由がよくわからな
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