も好かれようとつとめたことはなかった。
オイレルにフォーゲルの一家にとっては、彼女はいつも悪口の種であった。彼女のことは万事彼らの気色を害した。彼女の怠惰、家の中の乱雑、服装《みなり》のだらしなさ、彼らの注意にたいする馬鹿ていねいな冷淡さ、たえざる笑顔、夫の死に接しても乱されない晴やかさ、娘の病身、店の不景気、または、いかなることがあっても、その慣れきった習慣を、いつもののらくらさを、少しも変えないでやってゆく日々の生活の、細大ともどもの退屈さ加減――彼女の万事が、彼らの気色を害した。そして最もいけないのは、彼女がそんなふうでいて人に好かれることだった。フォーゲル夫人はそれを彼女に許してやることができなかった。すべて正直な人たちはそうだが、オイレル一家の者が存在の理由としてるところのもの、そしておのれの生活を早くもこの世からの煉獄《れんごく》となしてるところのもの、すなわち強力な伝統、真正な主義、無味乾燥な義務、面白みのない労働、燥急、喧騒《けんそう》、口論、悲嘆、健全な悲観主義、そういうものの上に、実際の行為によって皮肉な拒否を投げかけんがために、ザビーネはことさらにそうしてるのだ
前へ
次へ
全295ページ中100ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング