まき上って、にこやかな懶《ものう》さに唇をとがらした様子になっていた。下唇は少し厚かった。顔の下部は円形《まるがた》で、フィリッポ・リッピの描いた処女のような、仇気《あどけ》ない真面目《まじめ》さをそなえていた。顔色は少し曇っていた。髪はうすい栗《くり》色で、ごたごたに束ねてあり、後ろの方はもじゃもじゃしていた。身体はきゃしゃで、骨組が細く、動作が手ぬるかった。服装《みなり》には大して気をつけていなかった――胸の開いた上着、不足がちなボタン、すり切れた汚ない靴《くつ》、おさんどんじみた様子――けれど、その若々しい優美さ、物やさしさ、本能的な愛敬、などで人の心をひいていた。店の表に出て涼んでいると、通りかかりの若者らはそれに見とれた。そして彼女は、彼らを少しも気にかけてはいなかったが、見られてることに気付かずにはいなかった。すると彼女の眼は、心寄せて見られてるのを感ずるあらゆる女の眼がするように、感謝と喜びとの色を浮かべた。そしてこう言ってるようだった。
「ありがとうよ!……もっと、もっと、見てちょうだい!……」
 しかし、人に好かれることがうれしかったにせよ、彼女は本来の無精から、少し
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