ないで、十五歳の小娘を一人雇っていた。この小娘が朝のうち幾時間かやって来て、若いお上さんが寝床の中にぐずついたり、呑気《のんき》にお化粧をしたりする間、室を片付けたり店番をしたりしていた。
クリストフは時々、彼女が長い肌着《はだぎ》をつけ素足のままで室の中をうろうろしたり、長い間鏡の前にすわっていたりするのを、窓ガラス越しに見かけることがあった。彼女は窓掛をおろすのを忘れるほど無頓着《むとんじゃく》だった。そして気がついても、無精のあまりわざわざ窓掛をおろしに行こうともしなかった。クリストフは彼女よりずっと初心《うぶ》だったから、向うをきまり悪がらせまいと思って窓から離れた。しかし誘惑は強かった。少し顔を赤めながらも、彼女の両腕を横目で見やった。その腕は心持|痩《や》せていて、解いて髪のまわりに懶《ものう》げに上げられ、頸《くび》の後ろで手先を組み合していたが、しまいにしびれてきてまたがっくりおろされるまで、そのままぼんやりしていた。クリストフはその快い光景をただ通りがかりにうっかり見たばかりであって、そのために音楽上の瞑想《めいそう》が少しも邪魔されはしなかったのだと、思い込んでい
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