家人だった。街路に面した店をもっていて、なおその上に、中庭に面した二つの室を有し、四角な狭い庭までついていた。その庭は、蔦《つた》のからんだ針金作りのちょっとした垣根《かきね》で、オイレル一家の庭と区別されていた。彼女の姿は滅多に庭に見えなかったが、子供は朝から晩まで、土いじりをしてそこで一人遊んでいた。庭には草木が思うままはびこっていたので、手入れの届いた径《みち》と整然たる自然とを好んでいたユスツス老人は、それが非常に不満だった。そのことについて、借家人に少し注意を与えたこともあった。しかしおそらくそのために、彼女はもう庭に出て来なくなったのであろう。そして庭は少しもよくなりはしなかった。
 フレーリッヒ夫人は小さな小間物店を出していた。町の目抜きの繁華な街路に位していたので、かなり客足がつくはずだった。しかし彼女はこの商売にも、庭にたいすると同様にあまり気を入れていなかった。フォーゲル夫人の説に従えば、自尊心のある婦人にとっては――ことに、怠惰を許されないまでも怠惰でいてやってゆけるくらいの財産がない時には――自分で世帯の仕事をするのが至当であるそうだが、フレーリッヒ夫人はそうし
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