を離していた。そして畑を横切って逃げだした。彼女は石を投げつけ、破廉恥な呼び方をやたらに浴せかけた。彼は真赤《まっか》になって、彼女の言葉や考えよりもむしろ自分自身の考えに多く恥じ入った。そういう行いをした突然の無意識が非常に恐ろしくなった。何をしたのか? 何をしようとしたのか? それについて了解し得るかぎりのことは皆、嫌悪《けんお》の情を起こさせるものばかりだった。そしてその嫌悪の情からまた挑発《ちょうはつ》された。彼は自分自身と争った。どちらに真のクリストフがあるかわからなかった。盲目的な力が襲いかかってきた。いくらそれをのがれようとしても駄目《だめ》だった。自分自身から逃げることだった。その力は彼をどうするか分らない。明日……一時間後……耕作地を駆けぬけて道路に達するまでのそれだけの時間に、彼は何をするかわからない。彼は道へまでも行きつけるだろうか。引返して娘のところへ駆けつけるために、立止りはしないだろうか。そしてもしその時は?……彼は娘の喉元《のどもと》をとらえていたあの眩迷《げんめい》の瞬間を思い出した。いかなる行いも可能であった。罪悪でさえも……そうだ、罪悪でさえも。……
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