なとざされた小世界のように、彼には思われていた。彼らが感じており生きておることさえ、彼には確かにわかっていたろうか。それは実に不思議な機関《からくり》であった。クリストフは時として、幼年の無意識的な残忍さをもって、不幸な昆虫の四|肢《し》をもぎ取ることさえあった、しかもそれが苦しがることは少しも考えずに――そのおかしな※[#「足へん+宛」、第3水準1−92−36]《もが》きを見る楽しみのために。一匹の不幸な蠅《はえ》をいじめていると、平素はあんなに穏かだった叔父《おじ》のゴットフリートもさすがに怒って、彼の手からそれを奪い取ったこともあった。その時彼は初め笑おうとした。それから叔父の興奮に感動して涙にむせんだ。その犠牲者も自分と同様に実際生存しているのであって、自分は罪を犯したのであるということを、彼は了解し始めた。しかし、その後彼は動物をいじめなかったとはいえ、動物になんら同情を寄せてるのではなかった。そのそばを通っても、彼らの小さな機体の中に行われてることを感じようとはしなかった。むしろそれを考えることを恐れた。それはなんだか悪夢に似寄っていた。――しかるに今や、すべてが明らかにな
前へ 次へ
全295ページ中87ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ロラン ロマン の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング