した。――しかし、物を洗い清める外気の中では、大地に接触しては、その纏綿は弛緩《しかん》し、それらの観念は妖鬼《ようき》的性質を失った。彼の精神|激昂《げきこう》は少しも減退せずむしろ募っていったが、しかしそれはもはや精神の危険な眩迷《げんめい》でなく、力に狂った身と魂の、全存在の、健全な陶酔であった。
彼はかつて見たこともないかのように新たに世界を見出した。それは新たな幼年時代だった。ある魔法の言葉で「開けよ、セサーミ」の合言葉を言われたかのようだった。自然は歓喜に燃えたっていた。太陽は沸きたっていた。液体の空が、透明の河が、流れていた。大地は逸楽のあまりあえぎ煙っていた。草も木も昆虫《こんちゅう》も、多数の生物は、空中に渦巻《うずま》きのぼる生命の大火炎のひらめく言葉であった。すべてが喜びに叫んでいた。
そしてこの喜びが、彼のものであった。この力が、彼のものであった。彼は他の事物とおのれとを少しも区別しなかった。その時までは、激しい喜ばしい好奇心をもって自然をながめていた幸福な幼年時代でさえ、生物は、自分となんらの関係もなく理解することもできない、あるいは恐ろしいあるいはおかし
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