った。それら生物のほの暗い意識界は、こんどは光明の巣となった。
生物の群がってる草の中に、昆虫の羽音の鳴り響く木陰に、クリストフは寝ころんで、じっとうちながめた、蟻《あり》の性急な活動を、歩きながら踊ってるように見える足長|蜘蛛《ぐも》を、横っ飛びに跳《は》ね回る蝗《いなご》を、重々しいしかもせかせかした甲虫《かぶとむし》を、白い斑紋《はんもん》のある弾力性の皮膚をそなえている毛のないまっ裸の桃色の蚯蚓《みみず》を。あるいはまた、両手を頭の下にあてがい、眼を閉じて、彼は耳を傾けた、眼に見えない管弦楽に。香《かんば》しい樅《もみ》の木のまわりで、一条の日の光の中で、物狂わしく回転してる昆虫のロンド、蚊のファンファーレ、地蜂《じばち》のオルガンの音、木の梢《こずえ》に鐘のようにふるえてる野蜂の集団の音、または、揺ぐ木立の崇高な囁《ささや》き、微風に吹かるる枝のやさしい戦《そよ》ぎ、波動する草の細やかな葉ずれ、あたかも、湖水の清澄な面《おもて》に皺《しわ》を刻むそよ風のような、また、通りすぎ空中に消えてゆく恋しい足音のような……。
すべてそれらの音やそれらの鳴き声を、彼は自分の中に聞いた
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