いようにテーブルにしがみついた。言葉につくせぬものを、一つの奇跡を、一つの神を、彼は待ち焦れていた……。
 にわかに、中庭の中に、彼の背後に、みなぎりたつ水が、重い大きなまっすぐな雨が、水門の開けたかのように降りだした。じっとたたえていた空気がうち震えた。かわいた堅い地面が鐘のように鳴った。獣のようにほてった熱い大地の巨大な香《かお》りが、花や果実や愛欲の肉体などの匂《にお》いが、熱狂と愉悦と痙攣《けいれん》の中に立ちのぼった。クリストフは幻覚に襲われ、一身を挙げて緊張していたが、臓腑《ぞうふ》までぞっと震え上った。……ヴェールは裂けた。眩惑《げんわく》すべき光景だった。電光の閃《ひら》めきに、彼は見てとった、闇夜《あんや》の底に、彼は見てとった――おのれこそその神であった。その神は彼自身のうちにあった。神は室の天井を破り、家の壁を破っていた。存在の制限を破壊していた。空を、宇宙を、虚無を、満たしていた。世界は神のうちに、急湍《きゅうたん》のように躍《おど》りたっていた。その崩壊の恐怖と歓喜とのうちに、クリストフもまた、自然の法則を藁屑《わらくず》のように粉砕する旋風に運ばれて、落ちて
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