て施す術《すべ》があろうか? 彼女はもはやそれを疑い得なかった。ある日鏡で自分の顔を見てると、自分の不運の確実さが突然分ってきた。それは雷に打たれたようなものだった。もとより彼女は悪い点をもなお誇張して考え、自分の鼻を実際よりは十倍も大きく見た。鼻が顔全体を占めてるかと思った。もう人前に顔出しもしかねた。死にたいほどだった。しかし青春は非常な希望の力をもってるもので、そういう落胆の発作は長くつづきはしない。彼女はそのあとで、思い違いをしたのだと想像した。その想像をほんとうだと信じようとつとめ、そして時には、自分の鼻はまったく人並でかなり格好もよいと、思うまでになった。すると彼女は本能から、ある子供らしい策略を、あまり額を現わさず顔の不均衡をさまで見せつけないような髪の結い方を、しかもきわめて無器用に思いついた。それには少しも嬌態《きょうたい》を装う考えは交っていなかった。浮気心は少しも頭に浮かんでいなかったし、もし浮かんだにしろそれは知らず知らずにであった。彼女の求めるところはわずかなものだった。少しの友情きりだった。そしてその少しのものをも、クリストフは彼女に与えたく思っていないらし
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