、彼らの言うことを信じきっていた。腹蔵のない信頼的な満足しやすい性質だったから、家の中の憂鬱《ゆううつ》な気分に調子を合わせようとつとめ、耳にする悲観的な言葉を従順にくり返していた。彼女は最も献身的な心をもっていて、常に他人のことを考えて、他人を喜ばせようとつとめ、他人の心配を分ち取り、その欲望を推察し、ただ愛したがっていて、報酬を求むる念はなかった。家の者たちは、皆善人ではあり彼女を愛してはいたが、自然に彼女のそういう性質につけ込んでいた。人は常に、自分に身をささげてる者の愛情を濫用しがちなものである。家の者たちは彼女の世話を信じきっていたから、それを彼女に少しもありがたいと思わなかった。彼女から何をしてもらっても、さらにそれ以上を期待した。彼女は無器用だった。疎忽《そこつ》であり、性急であり、唐突なお転婆《てんば》な動作をし、むやみに愛情に駆られ、いつも家の中の災難となった。コップをこわし、水差をひっくり返し、扉《とびら》を激しく閉《し》め、あらゆることで家じゅうの怒りを招いた。たえずひどい目にあって、片隅《かたすみ》へ行っては泣いた。しかしその涙はすぐにやんだ。彼女はまたにこにこ
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